「おっ、あのお店半額セールやってるって」
「せぇる? 何だそれは」
今日は土曜日。授業は午前中で終わり、生徒たちは各々午後の有意義な時間を過ごしていることだろう。
五位鷺助と青行燈次、そして塵塚怪王丸は、真夏の太陽の照りつける中ショッピング街を歩いていた。鷺助と燈次は目に映るものをあれやこれやと話しており、その後ろをスイカ型のアイスキャンディを齧りながら怪王丸が続いている。
「半額セールってのは、半値で物を叩き売りすること、だ」
「半値? 問屋がそれで成り立つのか?」
「さあ? 人間の考える商売ってやつはよくわかんね」
「おい、お前ら服を見ろよ。そのために来たんだろ」
二人は話しながら歩いていくばかりで、店に入る気配がない。怪王丸はため息をつきながらそんな二人に堪らず突っ込みを入れた。時彦に頼まれて二人を連れてこさせられたのは、他ならぬ彼である。
「服は見てるぜ。ただ今買っても意味がないんだよなあ」
「はぁ? 服が欲しくて逢魔に頼み込んでいたんじゃないのか」
「それはそうなんだけど」
「じゃあ何で」
「時彦が要る」
「…もしかして、逢魔に服を選んでほしかったとか?」
海王丸がふといった言葉で、鷺助の動きが止まる。燈次はどうということもない顔をしていた。
「…図星か。仲いいな…お前ら」
「ちょ、ちょっと待った! 勝手に決めつけられちゃあ困るな!」
「何だ、違うのかよ」
「そうだ。いつも主が決まったら服を見繕ってもらっていた」
「ちょっと黙ってようか燈次君」
鷺助は珍しく焦っているようで、肩で息をしながら必死に否定している。彼に手で口を塞がれた燈次が不満げに眉をひそめていた。
「別にいいんじゃねえの? 昔ならよくあったことだろうし」
「お前最初ちょっと引いただろ!? というか今現在進行形で引いてるだろ!?」
「そんなことはないぞー」
うわー引いてるー引かれてるーといったようなことを呪詛のようにつぶやきながら、鷺助は頭を抱えてしゃがみこんだ。もし部屋の中ならば、転げまわっていてもおかしくない落ち込みようである。その隣の燈次はどこ吹く風といった体で、隣で蹲る鷺助に冷ややかな視線を送っていた。
「なぜそこまで恥じる必要がある? 俺達と主の決まりだろう」
「いや、いい年した妖怪が主人にべったりみたいで恥ずかしいだろ…一般的に普通に考えて…」
「だから、放課後たまたま寄った店で、ついでに服を選んでもらおう、か。悪かったな俺で」
「謝らないでくれ…逆に抉られる…」
しばらく黙りこんでいた燈次が、何かを見つけたのかはっとした表情になった。
「時彦!」
つられて振り返った怪王丸と鷺助の視界の先に、少し先のスーパーに入ろうとする時彦の姿が見えた。燈次の声に気づいたようで、こちらに顔を向けている。
「…本当だ。でも今日用事があったんじゃ…」
「時彦、服を見に行くぞ」
燈次の直球な物言いに、時彦が少し驚いたような顔をした。
「服?」
「そうだ。とにかく来い」
そういって燈次は時彦のほうに早足で歩いていき、彼の腕を掴んで二人のところに戻ってくる。若干引きずられるようにして連れてこられた時彦は、何なんだといいたげな顔で三人に視線を巡らせた。
「よ、主役さん」
「主役? 俺、晩飯の買い物頼まれてるんだけど」
「いいからいいから。せっかくバーゲンもやってることだし、見に行こうぜ。買い出しはその後でもできるだろ」
「それは、まあそうだけど…何で鷺助は丸まってるんだ?」
「ほら、いい加減機嫌直せよ。…まさか泣いてるのか?」
「泣いてねーよ!」
「何があったんだよ…」
「何もないから! さあ行こうすぐ行こう」
「おい、押すな」
慌てて立ち上がった鷺助が皆の背を必死に押して、四人は歩き出した。
蝉達はまだ鳴くのを止めない。
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